開設日:2004/02/20

更新日:2004/02/28(赤字の部分が更新部分です。

 

注意:歌詞の各句に施した日本語訳はポリドール・レコード発売の「Mr.BOO!」サントラ盤より引用したものです。

 

半斤八兩    作詞/作曲:許冠傑

 

①我呢班打工仔(僕らは貧しいサラリーマン)

 ○我(我們)=「われわれ」の意。

 ○呢班打工仔=「呢(這)」は「これ」の意。「班(幫)」は「人の群れ、集団」を数える言葉。「打工仔(工人)」は「労働者」の意。「我呢班打工仔」で「俺達労働者は」の意。直訳すれば「俺たちこの労働者達は」となるが、日本語としてはくどいので、前掲の様に訳す。

 

②通街走糴直頭係壞腸胃(体はクタクタ胃が痛む)

 ○通街(所有人)=「あらゆる人、誰も」の意。

 ○走糴=「走糴」は「走(奔走,跑腿)」と同じ意か。もしそうだとすれば、「走糴」は「忙しく働く」の意。

 ○直頭(一直)=「ずっと、絶え間なく」の意。

 ○係壞腸胃=「係(是)」は強く肯定する表現で「~のだ」の意。「壞」は「壊す」意。「腸胃」は「胃腸」の意。「係壞腸胃」で「胃腸を悪くしているのだ」の意。

 

③搵些少到月底點駛(過鬼)(安月給で月末はピーピー)

 ○搵(賺)=「(金を)稼ぐ」意。 

 ○些少(那麼點兒)=「わずか、ちょっぴり」の意。比較的小さな量を指す。ここでは「わずかなお金」の意。

 ○到月底=「到」は「~になる、~に至る」の意。「月底」は「月末」の意。

 ○點駛=「點(怎麼)」は「どうやって、どのようにして」の意で、ここでは反語に用いる。「」は「~するに十分である」の意。「駛(花)」は「(金を)使う」意。「點駛」で「どうして十分にお金を使えるだろうか」の意。

 ○過鬼=「(收入少,賺頭少)」は「収入が少ない」の意。「過(比)」は比較を表し「~より」の意。「鬼(任何人,誰)」は「いかなる人、誰」の意か。「過鬼」で「誰よりも収入が少ない」の意か。

 

④確係認真濕滞(まったく イヤになる)

 ○確係(確是)=「確かに、確実に」 

 ○認真(確實,真實)=「本当に」の意。

 ○濕滞(難辦、有麻煩)=「やりにくい、煩わしい、思い悩む」の意。

 

⑤最弊波士郁發威(癲過雞)(上司はいつも偉そうに)

 ○最弊=「最」は「最も」の意。「弊(壞,糟糕)」は「悪い、無茶苦茶な」の意。「最弊」で「最悪なことに」の意。

 ○波士(總經理,大老闆)=英語「Boss」の音訳で「社長」の意。

 ○郁(動不動就)=「いつも、何かというと、ややもすれば」の意。

 ○發威=「威張る」意。

 ○癲過雞=「癲(瘋)」は「気違いじみている」の意。「過(比)」は比較を表し「~より」の意。「癲過雞」で「鶏より気違いじみている」の意か。

 

⑥一味處係唔係亂吠(吠えてばかり)

 ○一味(總是、只是)=「いつも、もっぱら~するだけだ」の意味。

 ○處(在處)=「至る所で、どこででも」の意。

 ○係唔係(是不是)=「~ですか」の意。

 ○亂鬧,來)=「むやみに騒ぐ、考えなしに~する」の意。

 ○吠(狗叫)=「犬が吠える」意。「一味處係唔係亂嚟吠」で、「いつも至る所で犬のように騒いで吠えているのだろうか」の意。 

 

⑦翳親加薪塊面拿起惡睇(扭吓計)(昇給を頼めばしかめ面)

○「翳(挖苦)」は「皮肉る、あてこする」意。なお歌詞によっては「」と表記するものがある。「叨)」は「口やかましく言う、くどくど喋る」意で、意味から考えた場合には、「」と表記すべきか。

 ○親(次)=「…するたびに」の意。 

 ○加薪=「賃上げする、昇給する」意。「親加薪」で「昇給してくれとくどくど言うたびに」の意。

 ○塊面隼起(繃著臉)=「顔をこわばらせながら、怒った顔をしながら、仏頂面をしながら」の意。本来は「隼起塊面」の形で使う。ちなみに「塊」は人の顔を数える言い方。「面(面子,臉)」は「顔」の意。「隼(某些物質刺激皮膚或黏膜使發生微痛)」は「ある物質が皮膚や粘膜を刺激して微かな痛みを与える」意。「起(起來)」は動詞の後に来て「~し始める」意。

 ○惡睇=「惡(生氣)」は「腹を立てる、怒る」意。「睇(看)」は「見る」意。「惡睇」で「怒って見る、睨みつける、しかめっつらをする」

 ○扭吓計=「扭計(鬧別扭)」は「お互いに不満を抱く、仲違いする」の意。「吓(一下)」は「ちょっと、しばらく」の意。

 

⑧你就認真開胃(“おととい来やがれ”)

 ○你就認真開胃(你真貪得無厭)=決まり表現の一つ。「おまえは本当に貪欲で満足することを知らない」の意。「你」は「おまえ」の意で、自分の「波士」つまり社長を指す。「就」=「絶対に、まさしく」の意。あるものを特に指摘して強調する表現。ここでは「你」を強調する。「認真」は④を参照。「開胃(貪得無厭)」は「貪欲で満足することを知らない」の意。

 

⑨(半斤八兩)做到隻積咁嘅様(骨身を削って働いても)

 ○半斤八兩=「五分と五分」の意。「斤」も「兩」も重さの単位。旧時、半斤=八兩で、言い方は違うが、どちらも同じことだということ。

 ○做到隻積咁嘅様=「做到隻積咁」は「くたくたに疲れている」の意。「嘅(的)」は「~の」の意。「様」は「さま、様子」の意。

 

⑩(半斤八兩)濕水炮仗點會嚮(たまるのは不満ばかり)

 ○半斤八兩=⑨を参照。 

 ○濕水炮仗點會嚮=「濕水炮仗個響」という歇後語をもじったと思われる表現。歇後語は二句からなり、前句のたとえの部分だけを言って、後句を自然と推察させる一種の洒落言葉。前句「濕水炮仗(濕的爆竹)」は「湿った爆竹」の意。後句「點會嚮(怎麼會嚮)」は「どうして鳴るだろうか(鳴るはずがない)」の意。このことから「濕水炮仗點會嚮(脾氣或修養好極,永不發火的人)」は「性格または教養がたいへん素晴らしくて、いつまでも癇癪を起こさない人」を指して言う。ここでは社長に文句を言いたいけれど、自分は性格上、表だって言えないという意味。なお、「濕水炮仗個響」は「湿った爆竹は、鳴ることがない」の意味。

 

⑪(半斤八兩)薑呀揸鎗走去搶(強盗するような度胸はない)

 ○半斤八兩=⑨を参照。

  薑呀=「薑(有種)」は「勇気がある」、「呀」は「~か」の意で疑問を表し、「薑呀」で「~する勇気があるだろうか」の意。

 ○揸鎗走去搶=「揸鎗(拿槍)」は「銃を握る」意。「走去」は「行く」意。「搶(搶奪)」は「奪う」意。「揸鎗走去搶」で「銃を持って強盗に行く」意。

 

⑫出半斤力想話攞番足八兩(働けど働けど給料はあがらない)

 ○出半斤力=「(了)」は「~た」の意。動作の実現、完了を表す。「出半斤力」で「“半斤”の力を出したら」の意。「半斤力」は「半斤八兩」に引っ掛けた言い方。

 ○想話攞番=「想話(打算)」は「~するつもりである、~するもくろみである」の意。

 ○攞番(拿回)=「攞(取、拿)」は「取る」の意。「番(回)」は「返す」の意。「攞番」で取り返す。

 ○足八兩=「足」は「足りる」の意。「足八兩」で「(取り返して)“八兩”に足りる」つまり「八兩分(取り返す)」の意。ここでは「半斤八兩」に引っ掛けた言い方。「出半斤力想話攞番足八兩」は「働いた分だけ、お金を貰いたい」の意。

 

⑬家陣惡搵食 邊有半斤八兩咁理想(吹漲)(おいしい話はどこにもない)

 ○家陣惡搵食=家陣(現在)は「現在、今」の意。「惡(難)」は「~するのが難しい」の意。「搵食(謀生)」は「生計の道を図る」意。「家陣惡搵食」で「今は生計を立てるのが難しい」の意。

○邊有半斤八兩咁理想=「邊()」は「どこ」の意。「有」は「ある」の意。「半斤八兩」は⑩を参照。「咁(這樣,那樣)」は「このように、そのように」の意。「邊有半斤八兩咁理想」で「五分と五分(対等の立場)というこのような理想がどこにあるだろうか」の意。

 ○吹漲(①奈何②氣死)=「①どうしよう②たまらなく癪に障る、いまいましい」の意。

 

⑭我呢班打工仔(僕らは貧しいサラリーマン)

 ○①を参照。

 

⑮一生一世爲錢幣做奴隷(一生ずかな金の奴隷さ)

 ○一生一世=「一生涯」の意。

 ○爲=「~ために、~に対して」の意。

 ○錢幣=「貨幣、お金」の意。

 ○做奴隷=「做」は「~となる」の意。「做奴隷」で「奴隷となる」の意。

 

種辛苦折堕講出嚇鬼(死俾你睇)(情けなくて言葉も出ない)

 ○種(那種)=「あの種の、あのような」の意。

 ○辛苦=「苦労、骨折り」の意。

 ○折堕(受苦)=苦しみを受けること

 ○講出(説出)=「話す、言う」の意。

 ○嚇鬼=「“鬼”を驚かす」。ここでは自分の苦労を話したら“鬼”も吃驚するほど酷い」という意か。なお、「鬼」は日本の「鬼」とは違い、「幽霊」に相当する。

 ○死俾你睇(玩兒完)=「①万事休す②お陀仏になる、死ぬ」の意。

 

⑰咪話乜所謂(虚しさだけが募る)

 ○咪話(別説)=「言うな」の意。

 ○乜所謂=「(沒有)」は「~ない」の意。「乜(什麼)」は「何も」の意。所謂は「言うこと」の意。「乜所謂」で「何も言うことはない、何も関係ない」の意か。

 

⑱(半斤八兩)就算有福都你享(楽な暮らしは夢のまた夢)

 ○半斤八兩=⑨を参照。

 ○就算有福都=「就算(即使)」は「たとえ~でも」の意。「有福」は「幸運がある」の意。都(也)は「~も」の意。「就算有福都」で「幸運があっても」の意。

 ○你享=「(沒有)」は「~ほどない」の意で、比較の否定に用いる。「你」は「おまえ」の意で、社長を指す。「享」は「享受する、楽しむ」の意。「你享」で「(幸運があっても)社長ほど(その幸運を)享受することはない」の意。

 

⑲(半斤八兩)重惨過滾水淥猪腸(貯金は底をつくばかり)

 ○半斤八兩=⑨を参照。

 ○重(還)=「さらに」の意。

 ○惨=「ひどい、惨めである」

 ○過=「過(比)」は比較を表し「~より」の意。

 ○滾水淥猪腸=「滾水淥猪腸―(兩頭)一齊縮」という歇後語。「滾水(開水)」は「熱湯」、「淥()」は「煮る」、「猪腸」は「豚の腸」、兩頭」は「両端」、「一齊」は「同時に」、「縮」は「縮む」の意。「滾水猪腸―(兩頭)一齊縮(猪腸被開水一、就往中間収縮)」で、「豚の腸が熱湯で煮られると、すぐに両端が収縮する」という意。なおこの歇後語は「禍不單行(泣きっ面に蜂)」という意味で使われる。歇後語そのものの意味については、⑩を参照。

 

⑳(半斤八兩)雞碎咁多都要啄(それでも懸命に生きてるんだ)

 ○半斤八兩=⑨を参照。

 ○雞碎咁多(一丁點)=「少し、ちょっぴり」の意で、数量がたいへん少ないことを指す。ここでは収入がわずかであることを指す。

 ○都(也)=「~も」の意。「雞碎咁多都」で「少しでも」の意。

 ○要啄=「要」は「~しなければならない」の意。「啄」は「ついばむ」意。「要啄」で「(わずかな量でも)啄まなければならない」の意。ここで「啄」の字を使ったのは、「雞碎咁多」の「雞」(鶏)に引っ掛けてのことであろうか。ついばむの当然お金である。

 

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